ニュースレター
Vol.1 発刊日 2003/2/28
●巻頭言
理事長 中井 久夫
ようやく「ニュース・レター」創刊号を発行できるようになって、ほっとしております。発足後1年にようやくそれだけのゆとりができたというのが実情です。
被害は本質的に不条理なものです。そして被害者の家族も親友も不条理な被害者です。ある犯罪被害者の親御さんが、1枚の紙を掲げて、これをくしゃくしゃに丸めてから広げなおして、この紙のように心は決してもとに戻ることはありませんと言われました。強烈な迫力がありました。確かに、核心には取り返しがつかないことがあります。
しかし、被害者側の人たちの孤立無援感を軽くすることなど、できることがあります。ひとごとではなく「明日はわが身」だという気持ちが私たちにはあるはずです。
人災の場合、国法は加害者のほうに手厚いという声があります。なるほど、「容疑者は刑が確定するまでは推定無罪」でしょう。たしかに、裁判の「適切な手続き」は人類社会の知恵の結晶です。また、「犯罪は国家に対して犯される」といわれるのは、法治国家である限りはそのとおりでしょう。
しかし、それは楯の一面です。被害者が個人的な復讐をやめて、ことを国家社会にあずけたところに法治国家が成立したのです。国家・社会は被害者に報いるところがなくてはなりません。犯罪被害者等給付金を手始めに、治安当局の被害者側への顧慮も次第に増大し、最近の判決文は多く被害者感情に触れていますが、今後なお、被害者をもっと「蚊帳の中に入れ」、他方、報道被害を含めて、それに対して人としての権利を守る必要があるでしょう。
しかし、社会の側からの応援、援助、支持があってはじめて、被害者側が立ち直る力が出るはずです。犯罪の風圧が次第に強く感じられる今、この思いは特に切実なものがあります。
●各副理事・理事・監事の挨拶
副理事長 加藤 寛 精神科医
この数年間に、犯罪被害を受けられたご本人やご家族に沢山お会いしてきた。その度にいつも感じるのは、精神科医である自分に何ができるだろうかということだった。たしかに診察やカウンセリングという形でしか提供できないものもある一方で、そこに押し込めようとすると失われてしまうものは少なくない。被害者が何を求めているかを常に考え、社会に向けてアピ-する支援をし、普通の生活を取り戻すための支援を考えるという、基本的な態度は、既存のシステムでは不幸にも抜け落ちることが多い。そこに補完するためには、多様な仕組みが用意されていることが必要で、われわれNPOの存在意義はそこにあるのだと思う。
副理事長 井関 勇司 弁護士
被害者の人権は欧米諸国では認められていますが、日本では被害者が放置されてきました。弁護士も犯罪被害者に対して、ほとんど配慮してきませんでしたが、私は神戸須磨事件を契機に犯罪被害者支援に関心を持ち始めました。その中で、法的にも犯罪被害者に対する支援がこれほどまでに無視されているのかを知り愕然としました。その後、犯罪被害者保護法の制定、刑事訴訟法や少年法の改正等により、少しは前進していますが、まだまだ不十分です。私は、この支援センターを通じて、できる限り彼らに法的支援の手を差し伸べたいと思っています。
副理事長 杉村 省吾
武庫川女子大学大学院教授 兵庫県臨床心理士会会長
昨年1月12日に発足した「ひょうご被害者支援センター」も今年で2年目を迎えました。私はかねがね「被害者支援は四P」ということを言ってきました。すなわち1つ目のPは、災害・犯罪被害者に対して人道的な人間観や確固たる理念(Philosophy)を持つ事です。2つ目のPはその理念を行動(Practice)に移すことであり、3つ目のPはその行動を支える情熱(Passion)です。最後のPは被害者の方々が、物心両面での癒しを達成(Performance)することを、最後まで支えていくということです。今年も被害者の方々のために、一隅を照らしていきたいと思います。
理事 岩井 圭司
兵庫教育大学助教授・精神科医
様々な立場の人間がいろいろな意見を持って集う。完全に理解できなくても、共感しようとする。当センターがそのような場になりつつあることを実感しています。
理事 遠藤 浩
いのちの電話
被害者の方々が抱えておられるさまざまなもの を理解することは難しいと思いますが、関わらせていただくことで、何がなし少しでも皆さんの孤立感をほどく一助になれば、という思いでおります。
理事 垣添 誠雄
弁護士
私は平成4年暴力団に殺害された被害者の損害賠償訴訟をきっかけに、犯罪被害者支援にかかわらせていただいております。
理事 高松 由美子
被害者の会
犯罪被害者遺族、平成9年9月、同級生を含む少年10人に集団リンチにより長男を殺されました。自らの体験を犯罪遺族の支えになればと、直接支援に携わり、又自助グループも同時に立ち上げて活動をしています。
理事 冨永 良喜
兵庫教育大学教授
被害者支援のキーワードは、「戦いと絆」。ふつうの生活を侵害されたその時の恐怖と苦痛と悲嘆に、立ち会い、その証人となること。そのためには、善なる魂の絆が必要である。
理事 中川 勘太
弁護士
未だ経験が浅く、手探りで被害者支援を行っております。このセンターにおける活動を通じ、被害者の方々のニーズを知ることができればと考えています。
理事 羽下 大信
甲南大学教授
犯罪・事故の被害という被害者に向かうには、時に他者の助けを借りるのもよい。
一緒にできるところを作りたいと思っています。
理事 長谷川 京子
弁護士
平穏な市民生活を送りたいというのは、当然の人権ですが、これが犯罪で侵されたときの被害者への支援については、私たちの社会はこれからです。それに向けたささやかな試みをみんなでやりたい、と志して、このNPOに参加しています。
理事 本多 修
武庫川女子大学教授
兵庫県臨床心理士会理事
臨床心理士が広く社会に認知され、被害者の方の心の癒し・カウンセリングにも活躍できることを願っております。
監事 櫻井 繁樹
税理士
当センターの運営・発展に少しでもお役に立てるようにつとめてまいります。監事という役割上、皆様と直接接触する機会は少ないと思いますが、宜しくお願いします。
監事 土師 守
被害者の会
全国犯罪被害者の会(あすの会)準幹事、被害者の権利確立のための活動をしています。本来の仕事---放射線科医師、専門:胸腹部画像診断およびInterventional Radiology。
●日本における被害者支援活動の現状
弁護士 垣添 誠雄
日本では「治安とはタダ」を誇ってきましたが、平成13年度刑法犯認知件数は戦後最悪の記録となり、欧米と同じぐらい深刻な被害が出ています。国民がいつ犯罪被害者になるかわからないという、治安の悪化、深刻な犯罪社会に陥っています。いまや、日本における犯罪予防と犯罪被害者対策は、焦眉の、社会をあげての課題であるといえましょう。
被害者支援では何を支援し、何を保護するかを考えること、被害者の権利を尊重し、対等の目で見ることが大事です。
欧米を中心とする諸外国の被害者支援は30数年の歴史があり、トップ-ダウンではなく、ボトムアップで勝ち取ったものです。よって、民間支援組織であっても、国からの財政支援があり、被害者に対してしっかりとした財源が確保されています。
日本の被害者支援は訪米諸国に比べると、20~30年遅れているのです。
我が国の犯罪被害者がおかれている法的地位は、単なる裁判の「証拠品」にすぎないという、いわば、無権利状態です。当事者でありながら、裁判では傍聴人と同じ扱いを受け、証言のためのみ、法廷内に呼び出されるだけなのです。
被害者が被害直後に最初に会うのは警察であり、警察の対応は非常に大事なことです。警察が担う役割の1つとして被害者連絡制度、被害者対策室の設置が平成8年になされ、日本でも‘対策’とよべるものが出来始めたと言えましょう。
きめ細やかで、ヒューマニストとして、継続的に支援できるのは民間団体です。各センターの活動内容は現在、電話相談、面接相談が主です。立ち上がったばかりのセンターの課題は、まず社会からの認知が必要です。広報活動によって認知を広めることも大事ですが、それよりも実践で成果を積み重ねることが必要なことなのです。
●ひょうご被害者支援センタ-について
臨床心理士 冨永 良喜
平成13年度設立準備委員会の段階から犯罪被害者・遺族の参画があり、全国から注目されています。県警被害者対策室の全面的バックアップを受けてスタ-トしました。県下の警察官全員も会員になり、財政を支えています。
警察には被害者対策室が設置され、民間には電話相談・面接相談のシステムがあります。犯罪被害者支援の方法には、被害者の様々なニ-ズに対し警察と民間が連携して行う方法があります。支援の中には、電話相談・面接相談・直接支援があります。さまざまな窓口が多くあると、被害者のニ-ズに応えられると思われます。
当センタ-は現在、電話相談(週2回)、面接による法律相談(1回まで)・心理相談(1回まで)を行っています。直接支援は体制がまだ確立されていませんが、理事が行っていることもあります。
心理相談は、話を聴くだけではなく、被害者の権利を代弁する仕事もできます。
- 被害によって受けた心的外傷を、面接記録からまとめて法的に提出し、アドヴォカ シ-(代弁と擁護)をすること。
- 被害者の方が法廷で証言する際、動揺しないで主張できるようイメ-ジトレ-ニングのような、リハ-サルをすること。
理事の高松さんにまとめてもらいましたが、参加者にとっての自助グル-プは、
- 情報交換の場、
- 痛みを乗り越えながら、この辛い体験を通過する事ができる場、
- 自分を取り戻す場、
- 考えや気持ちをオ-プンに語れる場、
- 自噴の学んだ事を他の人に返す場であり、
「心を癒す場」ではないということでした。犯罪被害者支援のキ-ワ-ドは「たたかい」と「絆」でしょうか。
被害者はPTSDよりも、生活自体をおびやかされます。これからの直接支援は、被害者に寄り添い、身の回りの世話、病院・裁判所への付き添い、諸手続の代行、情報提供、マスコミ対応など、二次被害から被害者を守るということになるでしょう。来年は、再来年にかけて、危機介入支援員の養成を諮っていかなければいけないと思っています。