ニュースレター
Vol.1 発刊日 2003/2/28
●ひょうご被害者支援センターが2年目を迎えた
ひょうご被害者支援センター
理事長 中井 久夫
心ある人たちの浄財でほそぼそと動いているセンターだが、ようやく2年目を迎えた。
それでも、何よりもまず、続けることに意義があると思いたい。電話相談から始めるのは定石どおりだそうだ。しかし、何かの機会に被害者あるいは家族にお会いすることは、ほんとうにつらい。そのつらさがボディーブローのようにだんだん身にこたえてくる。
地震では動くはずのない大地が動いて、安心して住んでいた家が人を押しつぶした。ここで失った自然への信頼感を幹とすれば、PTSDなど症状の集まりで、単なる枝葉である。犯罪被害の場合、物心ついて以来育ててきた人間と社会への信頼感が一挙に失われる。かさぶたは何十年かかって少しづつできるにしても、信頼感が完全に回復するということはないはずだ。
本来の被害の後にさまざまな二次被害が続いて、傷に塩をなすりつける。「被害者はカヤの外」なのが長い間の実態だった。なるほど、法治国家だから加害者は国法を犯したのだ。それはそのとおりだが、実際に犯されたのは被害者に対してである。被害者には、この当たり前のことが長らく無視されてきた悔しさがある。
警察にも法曹にも加害者の大部分はへりくだり、あわれみを乞う。被害者にはそうではない。しばしば被害者は加害者の影に怯えて暮らす。被害者は加害者よりも孤独である。
戦後の日本人は、衣食住が足りればよいと思って努力してきた。それがほぼ達成された時、犯罪は激減し、検挙率は上がった。その時にも被害者がいたことは忘れないようにしたいが、今はすべてが遠い昔になった。人間不信を基本に作ってある欧米の家と違い、戦後の日本は家も町も低犯罪社会に合わせてできている。誰にとっても被害者になる確率が大きくなった。犯罪報道を聴く人にも、だんだん「明日はわが身」という真剣さが現れるようになってきた。
実際に被害に遭った人、その家族、友人になりかわって荷を背負うことはできない相談だけれども、せめて孤立感を和らげ、二次被害を少なくするなど、背の重みを少しでも軽くする支援はできるはずだ。力は小さくても、できることから始めて前進し、松明を引き継いでゆくことしかない。
●シンポジウム「被害者支援 ~いま、必要なこと~」
【プログラム】 | |
---|---|
コーディネーター | 羽下 大信 (甲南大学教授、ひょうご被者支援センタ-理事) |
(1)基調講演 | 岡本 真寿美 「被害者として生きるとき」 |
(2)パネルディスカッション | パネラー 岡本 真寿美 (全国犯罪被害者の会会員) 宮井 久美子 (京都犯罪被害者支援センタ-事務局長) 三澤 肇 (毎日放送報道局キャスター) 垣添 誠雄 (弁護士、ひょうご被害者支援センタ-理事) |
後援:兵庫県被害者支援連絡協議会
ひょうご被害者支援センタ-では、設立2周年を迎えるにあたって、上記のタイトルで、平成15年6月7日、シンポジウムを開催しました。私がコ-ディネ-タ-・総合司会を務めましたので、以下にその概要を報告いたします。
まず前半は、御自身が被害当事者である岡本真寿美さんに、「被害者として生きるとき」と題して基調講演を戴きました。岡本さんは、予想もしなかった被害に巻き込まれ,PTSDを抱え、今も続く皮膚移植手術の苦しさの中、生きようとする意志を持ち続け、そんな中でさまざまな人たちの支援を受けたこと、また、被害者支援を訴える活動をとおして出会ったかけがえのない人たちのこと、それでもそこに立ちはだかる壁、孤立感、それを支えるには人のつながりが必要なこと、こうしたことについて熱意を込めて語って下さいました。支援を必要とする人の内側から見えるリアルな現実が示され、そこに、われわれの目指すべき援助の具体的な手がかりと方向が示されていました。
後半は4人のパネリストによるパネルディスカッションです。まず、先程の岡本さんからは、今の自分が必要としているサポ-トを法律、財政、行政、医療といった、より実際的な面で話して戴きました。続いて、京都の支援センタ-事務局長の宮井久美子さんからは、10年の活動の中で民間支援団体としての運営・維持の実際と困難を、とりわけ財政的裏打ちの重要さを実感とともに話して戴きました。次に被害者報道のあり方に関心を持つ報道キャスタ-の三澤肇さんより、報道することの貢献とリスクという面から、報道被害を念頭に置いた、これからのあり方を探るお話を伺いました。
最後は、当センタ-理事でもあり、被害者のための法整備に強い関心を注ぎ、精力的に被害者の弁護活動を続けておられる、垣添誠雄弁護士よりお話し戴き、被害者のための法律の現状と、法整備がいかに事態を決定づけるかを、改めて知るところとなりました。
以上、それぞれに活動的なパネリストを迎え、われわれのこれからの活動の方向を見定めるのに、確かな手がかりを、幾つも得たシンポジウムでした。
理事・甲南大学教授 羽下 大信
●ひょうご被害者支援センターに期待すること
被害者対策室長
近年、被害者支援をめぐる世論の関心が高まり、「被害者」という言葉が立法を動かし、刑罰の強化や被害者保護の規定が設けられたり、司法、行政機関の体制の整備・強化が図られるなど、被害者の目線に立った対策が画期的なスピードで進められてきました。また、かつては被害者が声をひそめ、悲しみや悔しさを自身の殻に閉じ込めていたことが、勇気を持って行動をとるようになってきたことから、各種相談の増加や心のケア、癒しの希望、さらには、裁判傍聴といった多様なニーズとして現れてきました。
こういった社会の大きな潮流の中にあって、警察は「被害者等の早期の軽減に資するための措置」の義務を担い、事件発生直後の初期的段階に重点を置いた支援を行っていますが、法執行機関による支援には限界があり、こういった被害者の多様なニーズに応えていくためには、「ひょうご被害者支援センター」をはじめとした関係機関と連携を図ることが必要不可欠であります。
被害者対策室としては、警察における被害者対策の拠点としての活動を進める上で、ひょうご被害者支援センターとは「良きパートナー」として位置付け、共に被害者支援に取り組んでまいりたいと思っています。
ひょうご被害者支援センターは、運用開始から2年目を迎えられたばかりです。民間団体の支援は、長期的かつ幅広い支援が可能でありますので、現在の電話、面接相談に加え、今後は、裁判所への付き添いや犯罪被害給付制度の教示といった分野にも活動の幅を広げられ、社会に根付いた団体として活動されることを大いに期待しています。
●~今後の直接支援について~ 犯罪被害者遺族から
理事 高松 由美子
被害者は、ある日突然事件に遭います。事件が起きてから、被害者は、警察、医師、弁護士、臨床心理士などの専門職の人たちのまっただ中に投げ込まれます。まったくの素人である被害者にとって、警察での事情聴取をはじめ、病院での医師からの説明もなんら理解できません。これからどうしたらよいのか被害者に理解できるように説明してくれる人もいないし、教えてくれる人もいないのが現実です。世間から孤立し、何をすればいいのか、誰に聞けばいいのか、教科書もなく、教えてくれる人もいないのです。こんなとき、事件直後から、同じ傷みを持った経験者がそばにいると、とても安心できます。
『これが、一番の理想だと思います。』
例えば、事件直後、被害者がまったく気がつかないのは、食事です。誰かに「食べなさい」と言われないかぎり、食事の事を忘れている被害者は多く、また、自分が食事をすることはいけないと思いこむ人もいます。そんな時、支援者が買物をし、食事を用意したり、ちょっとした家事を手伝ったり、役所の手続きに付き添ったりすると、被害者は安心できます。買い物に出かけても、買うべきものが思い出せなかったり、職員の説明が聞き取りにくかったり、自分の住所さえ急に書けなくなることがあるからです。
まだまだ被害者がこのような混乱状態になることが理解されておらず、夫婦や身内の人たち、また友達に頼るのが現状です。しかし同じ痛みを持った経験者がいないとしても、男女を問わず、一定の訓練を受けた人がそばにいるだけでも被害者は安心できます。そして、被害者に付き添うことは、早ければ早いほど、事件ともむきあえる時期も早くなり、その人の方向性も見つかり、立ち直りも早くなります。そのうえ、後々の回復につながり、間違いのないように進んでいくことができるのです。
今後このようなきめの細かい直接支援を被害者は必要としていることを、広く伝えてゆきたいと思います。