ニュースレター
Vol.21 発刊日 2014年1月
シンポジウム基調講演
「信楽事故から被害者参加制度までの軌跡を振り返って」(要旨)
講師 弁護士 佐藤 健宗
私が、長い間にわたって被害者の問題に携わってきたという経験を踏まえ、歴史的なことを中心に話をさせて頂きたい。
私は、平成元年の4月に弁護士登録をし、弁護士経験25年目になる。私が弁護士になった頃、犯罪被害者という視点は、基本的には無かった。被害者が、独自の存在感を持って発言を求められたり、発言を許されたりすることが基本的に無いという時代である。
平成3年に発生した、私の原点としての信楽高原鉄道事故。私は、初期の段階から弁護団の一員であった。当時の被害者、遺族が社会的に認知され、存在を認識されていることは無いということを本当に申し上げたい。
裁判になってからも、傍聴券を裁判所が確保することも無かった。また、刑事記録についても、被害者や遺族が優先的に記録を閲覧、謄写をすることは出来なかった。そのため、裁判を傍聴してメモを取る。更には、民事裁判を起こし、送付嘱託申請などを行ったが、全て手探りであった。オウム真理教の地下鉄サリン事件では、刑事裁判記録の送付が何年も止められていた。これがつい20年ほど前の日本の裁判所の現状であった。
平成9年に発生した高松さんの息子さんのリンチ殺人事件。当時、少年事件の壁がいかに被害者遺族にとって厚いものであるかを私に悟らせる大きな経緯になった。被害者遺族は蚊帳の外に置かれていた。民事裁判を起こし、家庭裁判所から記録をコピーして送ってもらうだけでも壁は厚くて記録が揃わない。裁判官に繰り返し訴え、やっと法廷で高松さんの質聞が認められたが、質問を限られ、極めて簡単な質問しか許されなかった。しかしながら、遺族が直接問いかけることについて、積極的な意味が確認されたのではなかったか。
平成13年に発生した明石の花火大会歩道橋事故。既に犯罪被害者保護関連2法が出来ており、意見陳述は既に導入されていた。その制度を使ってみて、信楽のときとは全く違う、時代は変わりつつあるんだと思った。結果的には、刑事裁判と民事裁判が有機的に連結をし、手続き的にも明確になった。
歩道橋事故では、司法改革の中で検察官の起訴独占主義に大きな変化があった。検察審査会に申し立てをし、強制起訴に至った。全国で強制起訴第1号である。
裁判員裁判と被害者参加のことについても申し上げたい。
平成21年に発生した神戸市垂水区殺人事件。神戸地方裁判所で被害者参加の手続きが裁判員裁判と併せて行われるのは第1号であった。ご遺族の気持ちを刑事裁判における被害者参加に活したいと思い、情状証人に対する質問、被告本人に対する質問、被害者の論告、心情に関する意見陳述を組み合わせて取り組んだ。唯一の目撃者である息子のビデオリンクも活用した。
平成23年に発生した女子大生殺人未遂事件。この事件でも、被害者本人の出廷、検察官との訴訟進行の打合せ、被告人の父親(情状証人)に対する尋問、被告人本人への尋問、意見陳述と被害者論告を組み合わせる対応を行った。更に、法廷で加害者の後悔を含めた反省の態度を被害者本人に見てもらい安心に繋がると感じた。
信楽以来の色々な事件を踏まえて、今日の犯罪被害者を取り巻く司法改革の現状について何点か申し上げたい。
被害者参加制度の導入から5年が経った。やって良かったのか、続けていくべきか、見直し時期を含めた色々な議論が行われていくと思う。これまで法廷で、手続きの中で、ほとんど聞いて貰えなかった被害者の本当の気持ちを被害者の言葉で裁判官に伝えることが出来る。そして被告人本人、家族にも訴えることが出来るというのが一番大きいと思う。それは翻って、被害者や遺族にとっても自分が蚊帳の外に置かれるのではなく、自ら手続きに参加をした。そのことによって、被告人の対応、被告人の言葉、顔色、反省の度合い、そういうものをこの目で見ることが出来るということも、被害者や遺族の納得という点で大きな意味を占めていると思う。従って、基本的には被害者参加制度は非常に良い制度である。もっとどんどん使われるように体制を強化していく必要がある。
私は信楽高原鉄道事故以来、事故調査に随分深く関わってきた。5年前の法改正で運輸安全委員会設置法第28条に初めて事故手続きの中で被害者という言葉が法文化された。手続きの中に被害者の存在、被害者を大切にしなければならないという思想が盛り込まれたことを意味する。最近は、公共交通の分野で国が被害者を支援するという体制が発足している。このきっかけになったのが、関越自動車道の観光パス事故である。
今後、消費者事故の消費者事故調査委員会とか、医療問題の医療事故調査委員会でも被害者ということが真正面から位置づけられ、被害者、遺族の声に耳を傾けることが、手続きを充実させ、公正に行っていく上でなくてはならない存在だと、社会全体が今動いているように思う。
従って、犯罪被害者やその支援者の皆様が大きな声を上げて、司法改革のときに国会で被害者参加制度を立ち上げ、それが色々な所に良い反響をしながら、少しずつ被害者の存在に光が当てられ、これまで枠の外に置かれてきた被害者というものが、大切にされる世の中に変わりつつあるという現段階にあるのではないかと思っている。
パネルディスカッション 「犯罪被害者をとりまく司法改革の現状と展望」
コーディネイターとして木村倫太郎氏(弁護士)、パネリストとしてひき逃げ事故の被害者となった泉雄太氏(三木市議会議員)、田中実恵子氏(ひょうご被害者支援センター事務局長)、藤原学氏(神戸新聞社社会部デスク)、本多修氏(武庫川女子大学教授・臨床心理士)らが、それぞれの立場から制度のあり方、課題などについて発言がありました。
泉市会議員は、自分の経験から「裁判員裁判、被害者参加制度を有意義な制度とするも改善の必要有り。三木市の被害者支援の実例を紹介し、行政に市民の声を」等と、田中事務局長は「被害者参加の被害者・ご遺族は裁判に参加していると実感。更に司法制度改革を要望」等と、藤原デスクは「神戸地裁等の被害者参加状況の調査、裁判員経験者に対するアンケート調査から制度にはいろんな不備があり、使い勝手の悪さがある」等と、本多教授は「裁判員制度、被害者参加制度で司法に直接関わることが出来るようになった。立派な裁判員になれるような大人になろうを教育の基本に」等とそれぞれ発言がありました。
【topics】犯罪や事故に遭った人たちの思いを声で伝えたい!
~遺族らの意見陳述書朗読CD制作~ -無料配布開始-
犯罪被害者遺族の意見陳述書から5人分の法廷陳述書をセンターの相談員や女性警察官らが朗読、CDに収録しました。
交通安全講習などで受講者に聞いてもらうなど「被害者の声を受け止めてもらえれば」と考えています。
兵庫県警被害者支援室と共同制作。配布のご希望はセンター事務局までお電話ください。
【topics】渉外広報部を新設~広報活動・賛助会員拡大に注力~
(神戸新聞記事2013年6月27日/神戸新聞社提供)
センターを広く知ってもらうPR活動を強化するとともに、センターへの財政支援を訴える活動を活発化するため、県警OBの吉竹次郎、もと銀行員の坂ロ義廣の2名を登用いたしました。平成25年6月より活動を開始しています。
【topics】親と子どものためのワークショップを開催~平成25年8月~
~もしも子どもが犯罪被害に遭ったら・・・~対処法 親子で考える~
「子どもが被害に遭ったときの対応が難しい」との声が増えており、具体的状況を想定し討論。親子連れら約20名が参加、「親から禁じられたゲームセンターで遊んでいたら、恐喝に遭った。悪いのは誰?」
大人が子どもの目線で考えることで子どもが本当のことを話すようになり、適切な対応が可能に・・・。「学校では教えてくれないことを学べてよかった。被害に遭ったときにどうするべきか、家族や友人と話したい」などの感想がありました。
【topics】「神戸市犯罪被害者等支援条例」施行~平成25年4月~
~市区職員、民生・児童委員研修実施~
条例では市に「総合相談窓口」を設置するほか、見舞金の助成や、一時的な住居の提供等の日常生活の支援等が盛り込まれ、当センターも支援の窓ロとして紹介されています。
さらに当センターと協働し、市区職員と民生・児童委員各地区代表に対して「被害者のおかれた現状やセンターの役割など」をテーマに研修会を開催。
神戸市役所と9区役所において、計19回の研修を実施、約600名の市区職員・民生・児童委員さんに聞いていただきました。
【topics】「三木市犯罪被害者等の支援に関する条例」施行~平成25年4月~
~三木市とセンター 犯罪被害者等支援連携協力の協定締結~
~法人賛助会員として市民一人1円をセンターに~
条例では市からの見舞金の支給や、転居を余儀なくされた人への家賃補助、家事援助、一時保育費補助などを定めている。
市は、当センターとの間で、「犯罪被害者等支援の連携協力に関する協定」を締結、さらに、円滑に被害者支援をすすめるため、「市民一人あたり1円負担」の考え力で80,000円をセンターヘの賛助金としています。
【topics】兵庫県遊技業協同組合様へ感謝状を贈呈
昨年に引き続き多額の賛助金をいただきました兵庫県遊技業協同組合様へ感謝状を贈呈いたしました。
兵庫県遊技業協同組合は、地域とのふれあいを何よりも大切にし、さまざまな福祉活動、地域振興活動を行う各種団体に、毎年一定額の支援金を贈っておられます。被害に遭われた方々の支援のため有効に活用させていただきたいと考えています。
【topics】神戸市市民福祉顕彰奨励賞を受賞しました~平成25年7月~
市民福祉の向上発展に著しい功績をした人・団体に神戸市長から毎年贈られる賞です。今年度は個人4名、団体5団体が受賞しました。
センターが、犯罪被害者等に対し、さまざまな支援活動を展開し社会全体が被害者等をサポートできる環境づくりに大きく貢献したということでいただきました。
センターではこれからも被害者の方に一層寄り添っていきたいと感じています。
被害者支援自動販売機設置にご協力ありがとうございます
~清涼飲料の購入で身近にできるボランティア~
ご協力先様(平成25年12月31日現在)
KENSOWAKAコーポレーション 武庫川女子大学 日笠工業株式会社
福田誠 株式会社加美乃素本舗 国津商事株式会社 (敬称略)
皆様の温かい応援をいただきまして、現在5基の被害者支援自動販売機が設置されました。当センターの知名度向上、財政基盤安定のためさらに設置していただけるところを増やしたいと考えています。お心あたりの場所がありましたら、ご紹介をお願いします。
被害者支援自動販売機は、清涼飲料の売上げの一部を「ひょうご被害者支援センタ一」に寄付する支援システムです。 寄付金は付き添いや支援員の育成費用など、被害に遭われた方やそのご家族・ご遺族をサポートしていくための事業に活用しています。
「ホンデリング」にご協力をお願いします!
~本で支援の輪(リング)が広がってほしい、という願い~
(神戸新聞記事2013年9月19日/神戸新聞社提供)
読み終わった不用な本、CD、DVDを「贈与承諾書」と共に梱包。買い取り業者「株式会社バリューブックス」TEL.0268-75-9380にお電話いただくと、ご指定の時間にヤマト運輸が集荷に伺います。株式会社バリューブックスにて、ご寄付いただいた本を査定し、査定金額がひょうご被害者支援センターに寄付されます。
※「贈与承諾書」は事務局にお申し付け下さるか、ひょうご被害者支援センターのホームページからダウンロードしてください。
会員募集
ひょうご被害者支援センターの活動を支える仲間を募集しています。ご協力をお願い致します。年会費 | 正会員 | 個人 | 5,000円 |
賛助会員 | 個人 | 一口 1,000円以上(何口でも可) | |
団体 | 一口 10,000円以上(何口でも可) | ||
郵便振替(おもかげご希望の方もこちらの口座番号へ) 口座番号:00900-3-185412 口座名義:特定非営利活動法人 ひょうご被害者支援センター |
私たちの活動は、 会費や寄付等で支えられています。支援はすべて無料で行いますが、支援員の養成・ 研修・広報啓発活動・事務局の運営などに経費を必要とします。被害者の方が安心して相談できるための活動を理解し、ご支援・ご協力をお願い致します。
発行日: | 2014年1月 | |
発行者: | 特定非営利活動法人 ひょうご被害者支援センター | |
事務局: | TEL 078-362-7512 | |
URL: | http://supporthyogo.org |
●編集後記●
今回のNews Letterはシンポジウムの特集となりました。
佐藤先生の基調講演では犯罪被害者支援の歴史的背景をはじめ、多くの貴重なお話をいただきましたが、紙面の関係ですべてを掲載できなかったことが悔やまれます。
そして、当センターの活発な活動を背景にトピックスも盛り沢山で、掲載記事選定に苦労いたしました。
センターは、すでに、公益社団法人として認可を取得いたしました。今後は、公益社団法人の名に恥じないよう、一層充実した活動を目指して参ります。