ニュースレター
Vol.3 発刊日 2004/2/29
●被害者に関する司法の現状
副理事長・弁護士 井関 勇司
犯罪被害は甚大です。しかし、これまで、犯罪被害者の立場は全く放置されてきました。最近になって、被害者問題に関して世論が高まり、犯罪被害者保護法が制定されるなどして、少しは前進しましたが、またまだ不十分であると思っています。
1.少年法の改正 (平成13年4月1日施行)
被害者に対する配慮を考え、
- 非行事実の記録の閲覧・謄写ができる
- 裁判官や調査官から意見聴取ができる
- 少年や親の住所、氏名、審判決定の要旨を被害者に通知する
上記のことが認められましたが、これらは本来当たり前のことです。しかし、記録の全部につき閲覧・謄写ができないこととか、審判決定の全部がわからないし、被害者が審判廷に出席したり、意見を述べることも認められていません。
2.犯罪被害者保護法の制定 (平成12年11月1日施行)
- 刑事公判記録の閲覧・謄写ができる
- 優先的に裁判傍聴ができる
- 刑事公判調書に示談の記載をすると強制執行ができる
しかし、記録の閲覧・謄写も事実を知るためではなく、損害賠償請求権行使に必要な範囲でしかできません。
3.刑事訴訟法の改正 (平成12年11月1日施行)
- 被害者は法廷で心情、意見陳述ができる
- 証人尋問の際に付添人をつけられる
- 証人と被告人・傍聴人の間に遮蔽版を置ことができる
- 証人尋問の際、ビデオリンク方式(法廷外で映像により尋問をすること)ができる
但し、実際は被害者からの申し出がないと認められないのが現状です。
●DV事件の被害者支援
理事・弁護士 長谷川 京子
DVは、ほんの数年前まで「犬も食わない夫婦喧嘩」と笑われ、警察に相談しても「子どもの父親を牢屋に放り込みたいのか」と叱られ、被害者は沈黙させられた。2001年4月にDV法が成立してから、配偶者間の身体的暴力によるDVだけが「犯罪となる行為」(前文)と認識され、裁判や相談、捜査に関わる職務上関係者の間に多少は理解されるようになったが、まだまだDV被害の全体は理解されていない。
そのために、解決を望む被害者が、今だに、「(加害者と)結婚していないから」とか「まず家を出てこないと」とか「身体的に傷つけられたわけじゃないから」とかいう法律の不備や、時には職務関係者の不勉強のために救済を拒否され、「どこにでもあること」「多少は我慢するべきこと」と逆に非難される事態は続いている。そのような反応の基礎には、親密な関係にある女性が男性に多少殴られるとしても、いちいち立ち入るべきでない、たいしたことはないんだ、という価値観(女性蔑視)がある。
法律の改正強化とともに、社会のこういう価値観を変えていかなければ、DVを根絶することはできない。被害者はその最先端に立たされている。
裁判手続きで、DV加害行為と被害者の損害を過小評価しないことはもちろん、支援の現場で被害者を二次被害から守り、同時にその本質的な権利を代弁していくための活動はますます重要である。DV被害者が、医療機関や警察、弁護士事務所などへ行く時に同行する、加害者の裁判に安全な行き帰りの手配をして付き添う、付添い先で相手の無理解に出会った時は必要に応じ被害者に代わってDV被害について情報を提供する、付添い先で混乱した被害者が失念したことを整理して後で被害者に噛み砕いて説明する、等々の「付添支援」は、神戸で始まり、暴力被害女性への支援として全国で高い評価を受けている。
被害者に同行することは、被害者と同じ目線で解決の場面をくぐって行くことである。間近に支援者のぬくもりを感じられる付添支援こそは、DVにより孤立させられ、暴力と理不尽な被害者攻撃を受けて世界に対する安全感と信頼感を喪失しかけた被害者にとって、かけがえない支援である。現在の被害者支援制度の不備を被害者側から点検することもできる。被害者のため、社会のために役立つ支援が始まっている。
●シチズン・オブ・ザ・イヤーを受賞
当センタ-の高松由美子理事が今年度の「シチズン・オブ・ザ・イヤ―」を受賞されました。この賞は日本人および在日外国人の中から市民に感動を与えた人、市民社会の発展や幸せ・魅力作りに献身した市民に与えられる賞です。今、市民主役の時代といわれる中で、広い視野から無名の市民を顕彰する賞がほとんどなかったことから、1990年にシチズンが自社の掲げる社名CITIZEN(市民)に基づき創設された賞です。
この受賞について「この度、良き市民を顕彰する「シチズン賞」に選ばれたことは全く思いがけないことで驚きました。色々な方の出会いや支援のおかげで頂けた賞だと、皆様に感謝しております。今回、シチズンという大きな企業が、私の活動に目を向けてくださったことは、犯罪被害者に対する見方が変わりつつあるのではないか、また、犯罪被害者を偏見の目で見るのではなく「被害は誰にでも起きること」を理解してもらえたのではないかと感じています。
犯罪被害に遭い、支援活動を続けているのは私だけではありません。今回、私個人がこの栄誉ある賞を頂きましたが、この賞は犯罪被害者を支援する全ての方々に送られたものだと思っています。私自身も何が出来るかはわからずがむしゃらに活動してきましたが、いつの間にか自分自身の為、息子や家族の為、そして被害者・遺族の為になっていました。
継続する事が最も大切なことで、継続することにより支援の輪が広がりました。無理をせず、自分に何が出来るか、何が必要かを考えて、今後もゆっくりと被害者・遺族とのつながりを深め、支え・励ましあいながらこの支援活動に関わって行きたいと思っています。」と語っておられました。
この地道な活動が認められたことに、当センタ-から心からお祝いの言葉をお送りしますと共に、受賞者から犯罪被害者支援活動を続けていく新たな力を頂いたと感じています。